不動産登記は第1条にあるように、
「国民の権利保全と取引の安全と円滑に資する」
ことを目的としています。
そして建物を建築した場合、表題登記をするのは義務とされていて、登記を怠ると過料を科せられます。(法47Ⅰ、164)
しかし、表題をしたことで逆にリスクが高まるとしたらどうでしょう?
今回はそういったことが起こりうることについて考えてみます。
表題登記の義務
不動産登記法第47条第1項に
『建物を新築した場合、所有権取得(成立)の日から1カ月以内に表題登記をしなければならない(抜粋意訳)』
とあります。
そして
『その登記を怠った場合、10万円以下の科料に処する』
とあります。
表題登記と所有権登記の違い
表題登記の目的は税徴収
私のブログでは何度か書いていますが、登記の前身は明治6年の地租改正です。
地租とは土地にかかる税金のことで、現在の固定資産税にあたります。
先日アップしたブログ「地積測量図 全部同じじゃない信頼性」で地積測量図をモチーフにした地租改正から不動産登記法の流れを書きました。
まだ前編しかアップしていませんが、登記成立の流れのYOUTUBE動画「【ゆっくり調査士:第17回】地積測量図(前編)~成立までの歴史」でも解説しています。
それまで認められていなかった土地の個人所有を認める代わりに、その土地から年貢でなく税金を納めることになったのです。
表題部所有者は納税義務者
表題登記を申請する際、所有者が申請することが原則です。
表題部に所有者と表記されます。
この所有者のことを専門家は表題部所有者と呼びます。
また、登記記録の甲区欄(所有権の登記欄)に記載される所有者を所有権登記名義人と呼んで区別します。※登記記録上はどちらも「所有者」と表記されます。
これはどういうことかというと、法律上意味が違うのです。
表題部所有者は登記義務者、納税義務者の意味合いが強く、所有権登記名義人は不動産の権利を持つ所有権者、所有権を主張する者という意味あいが強いです。
そのことは表題登記には登記義務を課せられるのに対し、権利の登記については任意であることからも判ります。
権利の登記は権利を主張をする気がないなら所有権登記もする必要がないのです。
大阪城は登記懈怠か?
少し古いニュースで申し訳ないのですが、大阪城の登記に関する話が産経WESTのニュースでありました。
サイトの文脈は
「大阪城は未登記でも大阪市が所有権を主張できる準備があるので登記は不要と主張している」というもので、「登記を怠ってけしからん!」というものではないです。
が、こういうニュースを見た人はそういう思いをいだく人も少なくないです。
しかし、これは本当にけしからんことなのでしょうか?
表題登記とは
納税義務ないなら登記は不要?
さきほど表題部所有者には納税義務者の意味があると言いました。
そして現在の不動産の税金は固定資産税です。
固定資産税は現在地方税となっていて、もし大阪城の所有者が大阪市だとすればその表題登記は
「大阪市は税徴収者である大阪市へ自分が納税義務者であることを登記する」ことになり、無駄な自己への報告手続となってしまっているとも言えます。
※表題登記は「建物が建った」ということを報告する報告的登記と言われています。
建物の要件
建物の要件については以前動画にしました。
登記できる建物の要件は以下の5つです。
詳しくは動画の解説をご覧ください。
- 定着性
- 構築性
- 外気分断性
- 用途性
- 取引性
今回の大阪城については1~4までは完全に満たしているといえます。
しかし5の取引性について疑問符がつきます。
社会通念上、取引性があるか?
確かに大阪城も金閣寺も1~4の要件を満たす以上、取引性もあるというロジックは成り立ちます。
ただ、実際の取引となった時、社会通念上「大阪城の売買をする」ということが現実の所有者である大阪市を無視して売買取引が行えるでしょうか?(ここでは大阪城が本当にに大阪市の所有であるかは議論しません)
無から有を生む表題登記
表題登記官の実地調査権
表題登記は表題部がない不動産の表題部を作成する登記です。
原則的に不動産登記は書面申請(電子申請を含む)によって行い、登記官の審査権も原則的に書面に限定されています。
しかし表題登記は少し違います。
原則的に書面申請なのは変わりませんが、添付書面だけで納得できないときは実地調査が認められています。
これを実地調査権と言います。
権利の登記官にはない権限です。
今回の大阪城の場合、大阪市以外の第三者が所有権を証明する書面を揃え、実地調査を潜り抜けることは制度上無理と言えるでしょう。
表題部がなければ権利の登記は不可能
逆に大阪市ならば所有権を証明する書面を揃えることは可能です。
大阪市が申請すれば登記所は比較的スムーズに表題登記を完了させるでしょう。
表題登記ができなければその後の権利の登記ができません。
ということは、未登記である表題登記が大阪城を守っているともいえるのではないでしょうか。
権利登記は書面審査
権利の登記をする登記官には実地調査権がありません。
書面審査権のみです。
ですので表題登記よりもハードルが低い、ともいえます。
さすがに本当に大阪城の権利登記がなされようとすれば、大阪市に問合せはあるとは思いますが…
所有権の登記(所有権保存登記)ができてしまえば、その後の担保権の設定登記(例えば抵当権設定登記)が可能になります。
つまり、大阪城を担保に借金をすることが可能になってしまうのです。
表題未登記がハードルに
そう考えると逆に表題登記をしないことが権利を保全するという、不動産登記法の意義とは真逆の効果が出ることになります。
それは表題登記は納税義務者の特定という不動産登記法の本来意義とはかけ離れた意味合いがあるからですね。
しかしこの理屈が成り立つのは、権利者が国や地方公共団体といった”官側”の場合だけです。
一般の国民には原則的にあてはまりません( ;∀;)
一般国民は登記が必要
というのも一般の人は不動産購入や建物建築の時にたいてい銀行融資を利用するからです。
融資のための抵当権設定するためには不動産が登記されている必要があるため、表題登記、権利の登記を必要とします。
時々見かけるのですが、自己資金で建築した人は未登記のまま放置していることがあります。
融資が必要なく、自分の権利主張をせずとも問題ないと思っているからです。
また、未登記でも徴税者である市町村は独自調査で固定資産税を課税してくるので、それを欺く行為さえしなければ脱税を問われることもありません。
実際に「1カ月以内に表題登記をしなかったから過料をくらった」という話はついぞ聞いたことがありません。
法定されているので取られても文句は言えませんが、この条文が残っているのは表題登記が課税に重要だったころの名残ですね。
なので官側は必ずしも登記の必要はないのですが、管轄をはっきりさせるためや物件目録代わりに登記をすることがあります。
また、金閣寺や平等院鳳凰堂など取引性はほぼないのに、補助金の関係で必要に駆られて登記をしているものもあります。
あまり不動産登記制度をディスり過ぎるのもなんなんですが、登記は成立ちの都合上、現実とそぐわない側面もあり、大阪城はワザと登記していない、というのもあながち間違いではない、という結論的な話で今回のブログを終わります。
でゎでゎ
コメント