それぞれの制度の特徴
タイトルにあるこの3つの手続き。
それぞれ全部土地の境界を決める方法、手続きなんですが、普通の人はちょっと見ただけでは何が何やらわからないですよね。
それぞれ全く違う制度、手続きなのでそれをなるべくわかりやすく解説していきます。
筆界特定制度
筆界特定制度の概要
筆界とは土地の登記記録上の境界のことを言います。
通常、土地の登記記録はこの筆界に囲まれた部分を対象に所有権移転や抵当権設定が行われます。
通常、土地家屋調査士がその筆界を調査、測量し、筆界の場所を明らかにして境界標を入れるのですが、隣接地所有者が立会いを拒んだり、行方がわからない場合、登記官がその筆界の場所を特定してくれる、という制度です。
筆界特定制度の利用場面
一般的にその筆界を表すため、コンクリート杭や金属鋲などを設置するのですが、それらがない場合があります。
そんな場合、どこまでが権利の対象なのかがわからないと土地の分割(分筆登記)などができないのです。
それではスムーズな土地取引に支障が出てしまうので、過去の登記の記録やその他さまざまな資料を調査して、過去の登記で筆界とされていた場所を明らかにするのがこの制度の趣旨です。
ですのでこの制度を使うには、対象となる土地の少なくとも1つは登記されている土地である必要があります。
登記がない土地があるのか?
例えば国有地、埋立地、または何らかの事情で登記されていない土地はけっこうあります。
筆界とは登記記録上の境界なので、登記がない土地はそもそも筆界がないといえます。
筆界特定制度の手続きの方法
筆界特定制度の手続きはどのようにするのでしょうか?
手続きのための申請書を提出する先は、対象の土地を管轄する法務局・地方法務局です。
この時注意が必要なのは、その土地の登記を管轄する各地の支局、出張所ではないということです。
東京なら東京法務局、大阪なら大阪法務局。
私の事務所がある神戸なら神戸地方法務局で、いわゆる「本局」と呼ばれる法務局です。
筆界特定手続きのための申請書は法務局のサイトにその様式があります。
→筆界特定申請書様式:法務局
筆界特定制度の効果
筆界特定制度により筆界が特定されると、筆界が確定することが必要な各種登記申請が可能になります。
具体的には土地分筆登記(土地の分割)、土地地積更正登記(土地の面積の訂正)などです。
また、登記記録の「筆界特定欄」にはその旨が記載されます。
あと、この筆界特定は制度上、筆界が特定されても境界標を設置しません。
費用の問題もありますが、「境界標自体には筆界の推定力はない」とされているからです。
境界標の推定力とは、「境界標が筆界でないと証明しない限り、筆界であるとする」ことを言う法律用語です。
しかし、境界標は「たぶんこれが筆界なんだな」程度のもので、むしろ「この境界標が筆界である」というためには、それが筆界であることを証明しなくてはなりません。
それを証明するための調査・測量をするのが土地家屋調査士なのです。
費用と期間
費用:通常の筆界調査費用+10~20万円程度
筆界特定の費用は以下の物に分けられます。
- 筆界特定申請手数料:申請時に法務局に収める手数料
- 代理人手続費用:代理人に申請をしてもらった時の報酬
- 予納手続費用:必要調査の費用
筆界特定手数料は固定資産税課税額を基に計算されます。
計算方法が複雑なのでここでは割愛しますが、固定資産税が高い土地ほど高くなる理屈です。
額は土地価格次第ですが、だいたい数千~数万円です。
これは必ず必要です。
次に申請手続を代理人に依頼した場合の報酬です。
これは通常の筆界調査にプラスして10~20万円程度を見積もる必要があります。
制度上、本人でも申請できるとされていますが、実際には本人が申請をするのは難しいです。
その理由は測量した図面の作成です。
申請時に測量図面などは必ずしも必要ないのですが、その場合、筆界特定のための必要調査として測量する必要があり、法務局からその費用の予納を求められるんです。
どっちにしてもこれらの費用がかかります。
予納額はだいたい調査士に依頼する報酬と同程度でしょう。
なぜなら、この調査をするのは調査委員となった調査士ですから。
予納しなければ手続きは進みません。
期間:6か月から1年程度
特定までの期間はだいたい6か月から1年程度とされています。
しかし、調査の難易度、関係者の立会いの進行具合でこれ以上かかることも珍しくないです。
筆界特定のメリット・デメリット
メリット
- 早い・安い
メリットの1番はなんといっても訴訟より費用が掛からず、期間が短いことです。
例外的にそうでない場合もありますが、全体的に安価で早いです。 - 筆界が決まる
とりあえず筆界が決まるので、登記が可能になります。
デメリット
- 処分性なし
この制度は「特定された筆界は一登記官の見解である」とのスタンスなので、処分性がありません。
処分性がないというのは、極端に言うと一登記官の意見に過ぎない、ということです。
なので、あとで境界確定訴訟を起こされて、くつがえる場合もあります。 - 自分の主張との食い違い
過去の資料に基づいて客観的に筆界の場所を特定します。
なので、申請人の主張とは全く違う筆界になる場合もあります。
それは通常の筆界確定作業でも同じですが… - 費用全額自己負担
筆界特定にかかる費用は全額申請人の自己負担です。
裁判費用を相手に請求できるかもしれない訴訟との違いです。 - 範囲で特定される可能性
筆界特定をしても、筆界が点で定まらない場合があります。
そういう場合はある程度の範囲をもって定めるのですが、のちの手続き次第ではそれでは意味がない場合があります。
境界確定訴訟(境界確定の訴え)
境界確定訴訟の概要
ここからは裁判の話で調査士の業務外の話なので、軽めになります(笑)
この手続きで境界を決めるのは裁判官です。
境界(筆界)は公法上の境界なので、表向きは対立構造になりません。
ただし、訴えを起こした人の土地には必ずその相手方があります。
なので一応カタチ上原告・被告に分けて裁判を進めるんですが、これを形式的形成訴訟と言います。
境界確定訴訟の利用場面
境界確定訴訟は境界が不明なあらゆる場面で利用できます。
訴えを起こす時に全く境界がわからなくてもOKです。
ただし、丸腰で訴えを起こすと後から調査測量の予納を求められるのは、筆界特定と同じです。
境界確定訴訟の手続きの方法
境界確定訴訟は対象土地がある場所を管轄する地方裁判所に訴えを起こすのが原則です。
場合によっては別の裁判所に移送(裁判所を変えること)されることがあります。
境界確定訴訟の効果
筆界確定訴訟を起こすと、境界は必ず決まります。
物証や資料が少なく、ほとんど判断が付かないような状態でも裁判官はどこぞに境界を決めなければならないのです。
仮に裁判官がデタラメに「ここが境界!」と決めたとしても、そこが境界です。
これがこの訴訟の強力な効果、形成力というものです。
境界確定訴訟の費用と期間
費用:数十万円~数百万円
その代わり、それほど強力な効果がある手続ですから、費用、期間もべらぼうにかかります。
対象土地の地価や相手とのもめ方にもよりますが、数十万円程度では収まらないことが多いです。
弁護士を入れたりするとミリオン超を覚悟してください。
期間:3~5年程度
この手続きは仮に裁判官がデタラメで決めても、境界が決まってしまいます。
なので相当な時間がかかります。
複雑な案件だったりすると、自分で決めたくないと思うのか、何度も何度も担当裁判官が変わることもザラです。
純粋に裁判官は転勤が多く、その裁判官が在職の間に判断が出せない、という事情もありますが…
メリットとデメリット
メリット
メリットは強力な形成力です。
訴えを出されたが最後、裁判官はどうでも境界を決めなければなりません。
独特のストレスがかかるからか、わりと境界確定ばかりを回される裁判官がいるようです。
境界鑑定で立て続けに同じ裁判官と顔を合わせることがあります。
デメリット
これももう、費用と期間がかかることにつきます。
これさえ覚悟できればこれが究極の方法です。
ただし、お隣との仲は修復できなくなるかもしれません。
境界問題ADR
境界問題ADRの概要
境界が不明なことが原因で発生した紛争の裁判外での解決方法です。
裁判所の代わりに各土地家屋調査士会が設置する境界問題ADRセンター(各会で名称は異なる)で調停を行います。
裁判所が行う調停と効果自体は同等とされています。
境界問題ADRの利用場面
境界(筆界)が不明なことにより争いになった場合に、第三者機関として両者の間に入り調停を行います。
この手続きは原因こそ境界が不明なことですが、最終的に筆界を決めることを目的としていません。
最終的に決着するのは所有権の範囲、というところが上二つの手続きと違うところです。
境界問題ADRの効果
それはずばり和解です。
お互いの意見、過去のいきさつを聴き、互譲の精神(お互いに譲り合う)にのっとり、所有権の範囲を合意することを目的としています。
その和解の材料として筆界調査をして筆界を確定し、合意内容に沿った手続きを進めることになります。
境界問題ADRの費用と期間
費用:20~30万円程度
費用については各境界問題ADRセンターによって異なるが、相談で2~3万円。
調停の和解成立で20~30万円程度としているところが多い。
期間:1~2年程度
期間は相手方との日程調整などもあるので、だいたい1~2年程度はかかっているようです。
調整が上手くいかないとそれ以上かかることもあります。
境界問題ADRのメリット・デメリット
メリット
- 和解により所有権の範囲が定まる
- それにより、筆界の確定も進めやすくなる
デメリット
- 相手方が出頭しないと手続きが始まらない
- 調停が成立しても決まるのは所有権の範囲:筆界は決まらない
- 調停が合意に至らない場合がある
以上の理由で、結局費用倒れに終わる恐れがあります。
まとめ
ここまでお疲れ様でした。
いろいろ書いたので最後にまとめます。
- 筆界特定制度(費用:低|期間:短|効果:中)
- 筆界(筆界)は特定されるので、登記ができる
- しかし境界確定訴訟でひっくり返される恐れがある
- 裁判より安くて速い
- ただし費用は全額自己負担
- 境界確定訴訟(費用:高|期間:長|効果:最強)
- 強力な形成力により必ず境界(筆界)が決まる
- 費用と期間がべらぼうにかかる
- 費用は相手と折半できる可能性がある
- 境界問題ADR(費用:中|期間:中|効果:低~中)
- 境界ではなく所有権の範囲が最終到達点
- 調停が始まるかどうかは相手次第
- 調停が和解するかどうかも開いて次第
- 和解まで至るとまあまあ費用がかかる
我々土地家屋調査士としては、自分の本業である筆界調査・確定で落ち着いてくれるのが一番良いんですが、それだけではどうにもならない場合もあるので、こういった手続きがある、とアタマの片隅に置いていてください。
今後ともよろしくお願いします。
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