一言に境界といっても様々なものがあります。
土地の境界、県の境界、国の境界(国境)。
昼夜の境界、男女の境界、自分と他人の境界…
土地家屋調査士が扱う土地に関する境界だけでもかなりのものがあります。
なので「登記上の土地の境界=筆界」と定義しています。
今回はたくさんある土地の境界の種類と意味について、お話しようと思います。
土地に関する境界について
みなさんこんにちは。
ゆっくり調査士、解説をする霊夢だぜ。
みなさんこんにちは。
ゆっくり調査士、解説を聴く魔理沙だよ。
今日もYouTubeチャネルから出張だよ。
全く人使いが荒いよな。
ところで霊夢。
境界と聞いて何の境界を連想する?
そうだね。
人間が鬼になる境界…
これ以上鬼滅ネタはやめろ…
じゃあ、やっぱり土地の境界を連想するかな?
そうだな。
単に「境界」とググっても上位には土地の境界についてのページが多くヒットする。
それだけ土地の境界について検索する人が多いってことなのぜ。
その土地の境界について、たくさんの種類があるって知ってるか?
え?
そうなの?
土地の境界の種類
土地の境界には主に以下の物があります。
- 筆界:不動産登記で取扱う土地の境界。
公法上の境界とされ、所有者間の合意で勝手に決められない。 - 所有権界:所有権の及ぶ範囲。本来は筆界と合致しているが、所有者の間の取り決めで自由に定めることができるが、登記はできない。
- 行政管理界:行政機関が管理する境界。道路、側溝、河川などと民有地の間に存在する。
一般的に公有地と民有地の境界であるべきだが、例外もある。 - 建築敷地境界:建築許可を受ける際に建蔽率、容積率を算出するための境界。
筆界と一致すべきだが、筆界が不明瞭な場合、便宜上の境界を設定する場合がある。 - 道路境界:道路と民有地の境界。
- 土地改良境界:農地の区画整理である土地改良で作られた境界。
- 畦畔境界:農地とあぜ道の境界。外畦畔、内畦畔、二線引き畦畔と様々なものがある。
- 仮換地境界:区画整理が完了するまでの仮の境界。区画整理完了後は筆界となる。
- 里道、水路の境界:法定外公共物との境界
- 行政界:行政区画の境界
その他にもありますが、土地家屋調査士が関わりそうな境界は上記のものです。
筆界
土地家屋調査士はこの筆界のスペシャリストです。
土地家屋調査士のメシのタネとも言えます。
筆界は「公法上の境界」と定義されています。
これは「お上(国)が決める境界」という意味です。
なので国民が勝手に境界を触ることは許されない。
アンタッチャブルなのです。
なぜか?
筆界は今でこそ土地所有者の権利を保全する境界とされていますが、もともとは課税のための土地の面積を測るための境界でした。
それを所有者が勝手に決めてしまっては適正な課税ができない、というわけです。
自分たちの土地の境界が自分たちで決められない。
これにより山ほど不幸が起こっているのですが、国はその姿勢を変えるつもりはありません。
所有権界
実際の土地所有者は「筆界=所有権の範囲=所有権界」と考えていますが、法的には別モノとされています。
これがトラブルの元となっているわけなのですが、民法の「私的自治の原則=自分のことは自分でする」により、登記制度に乗っからない土地の処分、分割も認められています。
その代わり、勝手にした部分については国は権利を保全してくれません。
まさに自己責任の世界です。
行政管理界
聞きなれない言葉ですが、行政が管理する土地の境界のことです。
行政が管理する土地とは、道路、水路、河川、池沼、堤防、国有地・官有地などです。
本来官有地と民有地の境界のはずですが、都合で土砂崩れの土留め工事を民有地内にした場合など、民有地でありながら管理は行政がする、という場所もあります。
こういう場所が筆界確定に絡むと土地家屋調査士が非常に困ります。
建築敷地境界
公式にこういう言葉はありませんが、ここでは建築許可申請のための敷地を設定する場合の境界を便宜そう呼びます。
本来なら筆界に基づく土地図面で建築許可申請を出すべきですが、何らかの理由で筆界確認をしないまま建築許可申請をする場合、適当な境界利用権原がある蓋然性が高い土地を建物敷地としてしまうことが、ままあります。
これが建物取毀の時の境界紛争の元であったりします。
縦割り行政の弊害がモロに出てくる部分です。
道路境界
読んで字のごとく、道路との境界です。
道路が公道なのか市道なのかでその性質が変わります。
不動産登記よりも建築許可などの方がここを重視します。
土地改良境界
土地改良とは農地の区画整理のことです。
土地改良組合が事業主体ですがこの組合は事業が終わると解散してしまいます。
解散後、境界や座標に変なところがあっても、訊きに行くところがなくて土地家屋調査士がとても困ります。
資料だけは残されていますが、事業を実行した人がわからなくて往生します。
畦畔の境界
畦畔とは田畑の畔や法(土手)のことです。
畦畔についてはローカルルールが強く、内畦畔、外畦畔、二線引き畦畔などで取扱いが違います。
これに里道(後述)、水路(後述)などが絡むとますますカオスになります。
地もPの調査士以外が手を出したがらない(いや地もPだからこそ?)案件が豊富に存在しています。
仮換地境界
換地とは区画整理のことで、街づくりのために旧来の住人に別の土地を与えて再開発します。
短期間に終了することが難しいため、仮の状態が長く続きます。
その状態を仮換地と呼び、建物を建築する土地は従来の地番(従前地番)と区画整理番号の2つの所在を持つことになります。
これはほとんどが地方公共団体が事業主体になることが多いため、比較的資料が集めやすく、問い合わせ窓口もわかりやすいことが多いです。
しかし、事業主体が組合の場合は土地改良と同じ悲哀が待っています。
水路・里道の境界
水路、里道は法定外公共物と呼ばれます。
法定外公共物とは道路法、河川法といった法律の対象外の道路、河川、水路のことで、小規模なものが多いです。
行政界
行政界とは地方公共団体間の境界や区の境界、町や字の境界を言います。
国民は行政機関が行政界を間違えたり争ったりせんやろ!と思いますが、東京都の大田区と江東区が中央防波堤の帰属を争った裁判は記憶に新しいところです。
調査士が関わる境界御三家
調査士が関わる境界は1の筆界は当然ですが、2.所有権界、3.建築敷地境界もしょっちゅう立ちはだかられて難儀します。
難儀する一番の理由は「筆界=所有権界=建築敷地境界」だと思ってる人が多いからです。
所有権界でよく問題になるのは、過去に登記外で所有権のやり取りをした場合などです。
例えば、屋根や塀が越境していたのでお互いが話し合って、土地の一部の譲渡をしたが分筆登記をしなかった場合などです。
この状態のまま、どちらかに相続が発生したり、所有者が変わったりすると不幸が発生します。
建築敷地境界は問題になるのは隣が建物を壊したときですね。
取壊し前の隣の人は筆界いっぱいにブロック塀を立てず、ちょっと下がったところに立てていた。
でも、次の人は新築で筆界ギリギリに塀を立ててきたときなんかです。
あんた!
前の人よりも塀がメッチャこっち来とんねんけど、越境してるんとちゃうんか!
いやいやいや。
あれは前の人が控えて塀を立てとっただけや。
ホンマの筆界はここなんやで。
ウソつけ!
建築確認書の図面にこう書いてあるやないか!
はっはっは~
建築確認書の図面は必ずしも筆界とちゃうねんで。
筆界がようわからん時は確実なラインを作るために内側に控えて図面描くことも珍しあらへん。
……
そうなんですね。
建築許可の時に重要なのは、ちゃんと敷地内に建物が建ってて、建物の建蔽率、容積率が規制範囲内であることです。
敷地に余裕がない場合は筆界ギリギリまで攻めますが、余裕がある場合はギリギリをせめて近隣からクレームを付けられることより、安全策で少し控えて敷地を書くことがまあまああります。
なんで行政管理界(道路境界)を個人が申請?
あと筆界確定時に必要になってくるのが道路、水路などとの境界を確定することです。
行政は道路、水路を管理しているはずなのに、こちらから『道路の境界はどこ?』と聞いてもパッと答えてくれる行政機関は少数です。
いちいちこちらで測量をして、役所に図面を提出してお伺いを立てなければいけません。
管理の範囲もわからんのに管理してるって言えるんかい!
おっと、誰かの心の声が聞こえてきた気がしましたが、たぶん空耳です。
農地の筆界は独特
農地の筆界は都市部の宅地とはまた違った味わいがあります。
土地から生産物を生み出す農家さんは土地への思い入れが非常に強いです。
そんな中で農地の区画整理である土地改良は都市部の区画整理とは少々違った趣があります。
自分自身、そこまで農地の筆界調査の経験が薄いんですが、理屈以外で決まっちゃってるのでは?と想像できるフシが多々あります。
そのため、行政機関が直接土地改良はせず、地元の人などで構成された土地改良組合が事業主体になってます。
組合は事業が終了すれば解散してしまいます。
資料は残されるのですが、管理する役所の職員は資料管理のみで当時の状況は全く知らない、ということが多いです。
資料に変なところがあって当時の事業のことを聴こうと思っても死人に口なしです(解散は組合の死亡と同等)。
土地改良がされていない農地は畦畔問題を抱えていることがあります。
畦畔とはあぜ道や法のことで、その場所や所有によって内畦畔、外畦畔、二線引き畦畔があります。
農地の中に畦畔があるのが内畦畔。登記記録には「田 1反2畝23歩、内畦畔16歩」なんて記載されたりしています。だから内畦畔。
外畦畔は農地に含めない場合です。
これらの内畦畔、外畦畔は民有地です。
二線引き畦畔というのは公共のあぜ道です。公道ならぬ公畦畔。なので官有地です。
法定外公共物の分権移譲
里道、水路というのは法的には法定外公共物と呼ばれます。
道路法や河川法の対象外の小規模な道路、水路ということでそう呼ばれます。
ですので中には開発のどさくさに紛れて潰されたり、埋め立てられたりして、事実上道路、水路としての機能をはたしていないものがあります。
これは平成12年までは国が管理してきましたが、国が「こんなものいちいちめんどう見てられるか!」ということで、地方公共団体にムリヤリ押し付けた譲渡したのが法定外公共物の分権移譲です。
この分権移譲は国が地方公共団体にリストを丸投げして、
この中で実際に形態が保持され、運用されているものはお前らにやる。
形態が無くなってしまっているものは国の手元に置いておくから、キリキリ調査しやがれ!
これは地方公共団体にはかなりの負担で、たいして役にも立たないような里道、水路を譲り受けるために膨大な調査をさせられた。
中には調査を放棄してまるまる移譲を受ける地方公共団体が少なからず存在した。
そういった地方公共団体の一つが世田谷区だ。
世田谷区はこの法定外公共物を丸呑みして移譲を受けた。
その中には戦後まもなく宅地造成されてしまった畦畔、水路が含まれていた。
これをリストを見ていた世田谷区役職員が
ああ!この移譲リストにある畦畔、水路が世田谷住民の住んでいる住宅地内にあるやないか!
公共物を取り込むとはけしからん!
裁判だ~!
こうして世田谷区畦畔問題が勃発した。
この話については話が長くなるのと、今回のテーマとずれるので、続きは別の回に書こうと思う。
だが、それはあんまりだ!って人のために、引っ越し前のこのくだりを書いたブログ記事のURLを書いておくから、そっちに飛んで読んでくれ。
http://blog.livedoor.jp/imoto_office/archives/52297216.html
なんか肝心なところで話が終わっちゃったような気がするけど…
そうだな。
ただ、世田谷畦畔問題は最高裁まで争ったけっこうタフな裁判なんだ。
そこを話し出すと今回のテーマと外れるし、ボリュームが大きくなり過ぎるのぜ。
そうなんだね。
しかたないね。
その辺を詳しく知りたい人は、ググって当時のニュースを拾うか、このブログの引っ越し前のページに書いてあるのでそっちを読んでほしいのぜ。
じゃあ、今回はこの辺で。
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