ねえねえ、魔理沙。
私が今度家を建てるのに買う土地なんだけどね。
今は駐車場に使っているので、建物を建てるには地目変更がいる、って言われたのよ。
お?ということは『地目変更のための費用が余分に必要』って言われたんじゃないのか?
そうなんだよ…
ただでさえ家を建てるのにお金がかかるのに、これ以上お金がかかるってひどくない?
まあ霊夢の気持ちもわかるよ。
でも、地目変更登記は霊夢がこれから家を建てるのに必要なことなのぜ。
どういうこと?わけがわかんないよ。
じゃ、今から地目変更登記について解説するのぜ。
よろしくお願い!
地目変更とは?
登記記録の要素
地目とは、土地登記の表題要素の一つです。
土地登記の表題は以下の要素で構成されてます(不登法(以下”法”という)§34Ⅰ)。
- 所在:土地がどこにあるかの情報。地番区域。 例)○○県○○市○○町一丁目
- 地番:土地の番号。原則的に同一の地番区域で同じ番号はない。
- 地目:土地の用途。 例)宅地、雑種地、田、山林など
- 地積:土地の広さ。通常は㎡で表す。小数点以下の表示は地目によって違う。
土地登記の表題要素は以上です。
地目変更の登記義務
この4つの要素の中で、所有者が恣意的に変更できるものは地目のみです。
土地は移動できないので所在は勝手に変更できませんし、地番も所有者が勝手に変えることはできません。
地積も広さは決まっているので、分筆(土地の分割)・合筆(土地の合併)登記、地積更正(地籍の誤りを訂正)登記をしない限り変更できません。
逆に、土地の用途を変えた場合、地目変更の登記義務が発生します(法§36)。
地目の種類
比較的自由に決められる建物の種類と違い、地目は土地の用途によって23の地目が法定されています。
- 田:水稲、ワサビなど、用水を利用する農耕地
- 畑:用水を利用しない農耕地
- 宅地:建物の敷地
- 学校用地:公社、施設の敷地、運動場
- 鉄道用地:駅舎、附属施設の敷地、線路の敷地
- 塩田:海水から塩を採取する土地
- 鉱泉地:鉱泉(温泉)の湧出口、施設の敷地
- 池沼:灌漑用水でない貯水池
- 山林:耕作以外で竹木の生育する土地
- 牧場:家畜を放牧する土地
- 原野:耕作以外で雑草、灌木類の生育する土地
- 墓地:人の遺体、遺骨を埋葬する土地
- 境内地:寺、神社、境界などの土地
- 運河用地:運河の土地(運河法規定)
- 水道用地:水道の水源地、貯水池、施設、水道線路の土地
- 用悪水路:灌漑用または悪水排泄用の水路
- ため池:灌漑用水の貯留地
- 提:防水のための堤防用地
- 井溝:田畑などの通水路
- 保安林:森林法による保安林の土地
- 公衆用道路:一般交通の道路
- 公園:公園の土地
- 雑種地:上記のいずれにも該当しない土地
地目変更登記の必要性
地目変更の報告
地目変更登記の本質は「この土地の用途は雑種地から宅地に変更しました」という法務局に対する報告です。
なので土地の用途は他の法令に反しない限り、所有者が自由に決められます。
しかし、「変更したら登記しろ」というのが地目変更の登記義務なんです。
なぜだろう?
地目の公示性
登記の目的はいろいろありますが、その一つに公示性があります。
民法では「不動産登記によって自分の所有権を第三者に主張する」とされているので、その不動産がどんな外観であるかを登記に記録します。
自動車の登録証に型式や車台番号、重量などを記載することに似ています。
以前は車体色も記載されていたんですが、その時代は車体色を変更することも「改造」の一つで、変更手続きが必要でした。
同様に、土地の用途を変えた場合は土地の特定、公示性の観点から地目変更が義務付けられているのです。
課税の名残り
登記は元はといえば地租改正の規則です。
地租とは不動産にかかる税金のこと。
土地の用途によって税率が違うので、「用途を変更したら課税の観点からも地目変更をしろ!」ということだったのです。
現在は地租が固定資産税となり地方税となったので課税目的の理由は薄くなりましたが、市町村が固定資産税を課税する場合の参考資料となっています。
担保価値の査定
土地を買うときに多くの人は銀行融資を受けます。
その時、債権の担保として土地に抵当権を設定することが多いです。
抵当権とは借入金の返済が滞った時に、債権者が土地を競売にかけて債権の穴埋めにすることができる権利のことです。
この場合、担保価値の査定は登記よりも現況を優先しますが、基本的に銀行は現況と登記が違っていることを嫌います。
競売の時にめんどうが増えるからです。
また、融資時の稟議の時に問題になることもあるかもしれません。
なので銀行から地目変更するようにプレッシャーが掛けられることもあるかもしれません。
地目変更の制限
農地の保護
地目は所有者が自由に変えられると言いましたが、例外があります。
それは農地です。
農地は国内の食糧生産力維持のために保護されてます。
農地は灌漑用水の運用や農作業のことを考えると、細切れの状態では生産性が上がりません。
なので、所有者が勝手に宅地やその他の用途に変更して、農地が分断されることを制限しているのです。
そのため、農地を他の用途に転用するには農地法の転用許可、届が必要とされています。
もし許可を受けずに勝手に転用してしまうと、場合によっては原状回復(元の農地に戻すこと)命令を受けることがあるくらいです。
建物建築目的で農地を購入する場合は、その土地が農地転用できるのかどうかをしっかり確認しましょう。
一不動産一登記主義の原則
登記には一不動産一登記主義の原則というものがあります。
- 1個の不動産に2以上の登記記録を設けることはできない
- 1登記記録に複数の不動産の登記をすることはできない。
- 1個の不動産の一部に登記記録を設けることはできない。
上記の原則により、土地の登記には1筆の土地には1つの地目という原則があります。
1筆の土地の中に複数の地目を許してしまうと、どの部分がどの地目なのかが混乱するからです。
ただし、古い登記記録の中には「山林 内堤」といった記録のものが残ってる場合がありますが、現代では新たにそういう登記をすることは許されていません。
一部地目変更分筆登記
ですので、土地の一部を別の用途に変更した場合、一部地目変更を原因とする分筆登記をする義務が課されます。これを一部地目変更分筆登記(長い!)と言います。
義務が課される、とは言っても、強制的に登記をさせられる、ということはありません。
ただ、この土地で他の登記をしようとした時に、この登記をすることを求められるのです。
一不動産一登記主義の例外 ~みなし道路
一不動産一登記主義の原則にも例外はあります。
その一つが建築基準法第42条第2項道路(通称みなし道路or2項道路と呼ぶ)です。
建基法では建物を建てるためには「敷地の前面道路の幅が4m以上必要」と規定しています。
しかし、建物が建て込んでいる地域ではその道路幅を確保することが難しい場合があり、そういう地域では一度建物を取り壊すと建物を建てられない土地が多く発生することになります。
それは街づくりとして不都合が大きいので、建築基準法の規定を満たすため、みなし道路を認めました。
みなし道路とは実は道路ではなく、敷地の一部を道路とみなすことで接道義務をクリアさせるための便宜上の考え方です。
その場合、2項道路部分は分筆することなく道路として使用します(分筆する場合もあり)。
1 | 42条1項1号 | 4m以上の道路法による道路。国道・県道・市道など。 |
2 | 42条1項2号 | 都市計画や区画整理によって整備された道路。 |
3 | 42条1項3号 | 既存道路。S.25.11.23建基法制定前から4m以上あった道路。 |
4 | 42条1項4号 | 道路法などで計画され2年以内に事業開始される道路。 |
5 | 42条1項5号 | 位置指定道路。民間が計画し、行政庁から位置の指定を受けた道路。 |
6 | 42条2項 | みなし道路。建基法施行当時、道路幅4m未満だったが、一定条件により行政庁が指定し、道路みなした部分。 |
7 | それ以外 | 建基法以外の道路。43条但し書き道路など。 |
地目の判断基準
地目判断の要件
地目については法令で規定されています。
判断が難しい事例については準則や先例などでも定められているのですが、そうでない場合も多くあります。
全体の利用状態
一般的に建物の敷地は宅地、駐車場などは雑種地とします。
すると、よく見かけるこういったコンビニは店の部分を宅地、駐車場部分を雑種地としているのでしょうか?
同様に、住宅にカーポートがある場合、その部分のみを雑種地とするのでしょうか?
土地の一部が別用途になった場合は一部地目変更分筆登記をすると言いましたが、土地全体の利用状態を考慮しながら地目は決定されます。
上記のようにコンビニと一体的に駐車場が利用されている場合や、住宅のカーポートなどはその土地全体を宅地として登記するのが通例です。
土地利用の時系列
宅地上に建てられていた建物を取り壊した場合、地目はどうなるのでしょうか?
宅地は建物を建てるための地目ですから、建物が無くなれば宅地の要素が無くなります。
しかし、建物がない状態が一時的なものであればそのまま宅地として地目を維持する場合がほとんどです。ですので、
~2020年6月 建物がある状態:宅地
→2020年7月 建物取壊し:雑種地
→2021年4月 建物再建築:宅地
とはならず、この場合はずっと宅地のままとなります。
また、再築の予定がなくても積極的に他の用途にしない限りは宅地の地目は維持するのが通例です。
まとめ
- 土地の登記項目は所在、地番、地目、地積
- 登記の地目は用途によって23の地目が法定されている
- 土地の用途を変えた場合は地目変更登記が必要
- 地目変更は公示性と課税単価算定のため
- 銀行融資の担保価値査定のため
- 地目変更には制限がある
- 制限①:農地:農地保護のため農地転用の許可、届が必要
- 制限②:一不動産一登記主義
- 制限③:一不動産一登記主義の例外:みなし道路
- 地目の判断要件①:土地全体の利用状態
- 地目の判断要件②:土地利用の時系列
意外と項目が多かったね。
そうだな。地目は判断基準が未確定な部分が多く、総合的な判断、という明文化されていない基準が多い項目と言えるのぜ。
総合的判断、って難しいよね。
今日も解説ありがとう、魔理沙。
どういたしましてだぜ。
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